生理は女性にとって健康状態のバロメーターでもあります。
生理の基礎知識や、生理中でも快適に過ごすためのセルフケアをご紹介。
競泳元日本代表・伊藤華英が教える「生理×スポーツの課題解決」(後編)
オンラインピル診療サービスを展開するmederi株式会社が、「女性アスリート向けの生理、PMS時のメンタルケアについて」をテーマにセミナーを開催。競泳元日本代表の伊藤華英(いとう・はなえ)さんをお迎えし、mederi代表・坂梨亜里咲(さかなし・ありさ)と共に、月経、PMSをはじめとした女性特有のヘルスケアやメンタルの悩みについてお話しいただきました。
後編では、事前に募集した様々なお悩みと、伊藤さんのアドバイスをご紹介します。キャリアプランや目標の設定方法、体のケア、月経についてなど、アスリートに限らず、全ての女性が必見の内容になっています。
もくじ
現役時代にやっておけばよかったこと
坂梨 伊藤さんは競泳でオリンピックや世界選手権などの様々な大会に出場されました。引退後の現在はピラティスの指導者資格や順天堂大学大学院で博士号などを取得されています。
また、「生理×スポーツ」の課題解決を目指す、経験者や識者による新しい教育プログラム『1252プロジェクト』のリーダーも務められています。
今回、現役引退後も各方面で活躍中の伊藤さんにお越しいただけるということで、数多くの質問が寄せられました。その中からいくつかをピックアップして、伊藤さんにお答えいただきます。
ひとつ目は、20代前半の方からの質問です。「現役時代にやっておけばよかったと思うことを教えてください」
伊藤 人生は長く続くので、スポーツをキャリアの軸とするなら、そこに付随する枝や葉となり得るものを見つけるといいと思います。枝や葉とは、引退後の仕事につながるような何かですね。
現在は「デュアルキャリア」という、競技と仕事を両立させるスタイルもあります。私自身、現役中にこの考え方を取り入れていれば、引退後の時間をもっと有効的に使えたのではと思いますね。
健康面では、婦人科に通うことですね。妊娠、出産を考えるなら、20代のうちに卵子凍結をすることも選択肢のひとつだと思います。今、アスリートの間でも広まっていますね。
坂梨 現役時代はどれくらい先のことを考えていましたか?
伊藤 オリンピックを目指すのであれば、最長で4年後までの計画を立てますね。そこから1年や半年ごとに細分化して、それぞれに目標を置きます。ただし人生を考えるのであれば、10年先くらいでしょうか。
坂梨 27歳で現役を引退されましたが、いつ頃から引退を考えていましたか?
伊藤 北京オリンピックが開催された2008年からはずっと考えていました。母親から「北京が終わったら何をやりたいか、少しずつ考えておいたら?」と言われたんです。当時チームメイトには相談しませんでした。みんなが目の前の勝利やオリンピックを目指すなか、引退の話はできなかったですね。
とはいえ、そういう自分の人生を考える時間は大事です。擬似体験やメンタルトレーニングにもなるので、引退後の自分を想像してみることをおすすめします。私はもうちょっとやっておけばよかったかなと思っています。
ベストを出すための「体のケアの注意点」
坂梨 では、次の質問に移りましょう。「オリンピックに2度出場されていますが、ベストを出すために体のケアで一番気をつけたことは何ですか?」
伊藤 近年、フィジカルのサポートはどんどん増えてきていますが、注意すべきは自分に合っているかどうかですね。私が合うと思ったケアは、鍼治療です。鍼を打ってもらった翌日は、水中での感覚が研ぎ澄まされた状態で泳ぐことができたんです。
鍼は週1回、他に、マッサージを週3回とカイロプラクティックを受けていました。もちろん、練習後には必ずストレッチも欠かさず行います。仲間としゃべりながらしていたので、ひょっとしたらみんなとのおしゃべりが一番のケアだったかもしれません。毎日が勝負なので、次の日もパフォーマンスを100%発揮できるように、体のケアは念入りに行なっていました。
生理前などのメンタルが落ち込んでいる時は、練習メニューのうちこの部分だけは頑張ろうと決めていました。とにかくその日の100%を注力できるように心がけていましたね。オリンピックに行くために、必死でした。
ストレスや重圧に負けない「モチベーションの保ち方」
坂梨 続いては、「社会人になっても競技を続けたいが、環境が変わっても競技のモチベーションを保つ方法はありますか?」という質問です。
伊藤 現役の頃は、社会人になってモチベーションを保てなくなったら、やめようと思っていました。お金をもらって競技をやるということは、働くということ。お金をいただくからには、頑張ることが前提です。そのくらいの覚悟をもってやるべきだと思いますね。
伊藤 そもそもこのような考え方は、水泳の先輩方が教えてくれたんです。日本代表の合宿で、当時、先輩は競泳界ではまだまだ少なかった社会人で、私は学生でした。
そこでみんなを集め、プロ意識についてお話ししてくれました。社会人で水泳を続ける先輩選手たちはそのような気持ちで泳いでいるのかと思い、身が引き締まりました。モチベーションの質が変わりましたね。
生活環境の変化は、誰にとってもストレスだと思います。なので、自分に起きた変化を良いストレスに変えていく。そのためにはリストを作り、目標を細かく設定するといいと思います。結果的に環境に馴染めることもあるんですよね。
社会人になっても競技を続けるために達成すべきことを10個くらい、細かく分けて書いてみてください。そうすると、自分が社会人になっても競技をやれるのかどうかが見えてきます。もしそこでモチベーションがなくなったら、引退を考えた方がいいのかもしれません。
とはいえ、私もモチベーションが低下したことはあります。そういう時は、自分を奮い立たせる言葉を紙に書いて、トイレなどに貼っていました。「臥薪嘗胆」「悔しさを忘れない」といったものを書いていましたね。それくらいやらないと、オリンピックには行けないと思っていましたし、自分にも他人にも勝てないと思っていました。
試合と月経が重なった時の対処法
坂梨 次の質問です。「大会と月経が重なりそうなとき、一時的に月経期間をずらすべきでしょうか?」
伊藤 難しいですね。月経をずらすべきかどうかは、人によると思います。私は月経の2日目以降にタイムがすごく上がりました。ですから1か月の中で、自分のピークがどこに来るのかを把握してみてはいかがでしょうか。一度、アスリート外来のある婦人科を受診するとよいかもしれません。一人で判断せず専門の医師に相談することが大切です。
坂梨 月経をずらしてホルモンバランスを一定に整えることで、パフォーマンスは上がるのかなと思っていました。ですが、逆に伊藤さんのように、ホルモンの変動があった方が結果を出せる場合もあるんですね。
伊藤 他競技ですが、あるベテランのコーチに聞いたことがあります。ピルを飲んだらピークがなくなった選手がいて、それについて悩んでいました。感覚は本人しか分からないものですから、一番調子がいい時期を把握して、より良い選択をしてほしいですね。
坂梨 月経を遅らせるためには中用量ピルの服用になるかと思いますが、もちろん身体に合わない方もいらっしゃいます。であれば、生理が止まったり、経血量が減少する効果も見込める、ミレーナを挿入するという方法もあります。
このように選択肢はいくつもありますから、婦人科で相談しながら、いろいろ試してみるのがいいですね。
伊藤 試すとなったら、余裕を持った方がいいと思います。。私は、中用量ピルを大事な大会の3か月前に飲み、そこから体重が4、5kg増えて大変な思いをしたことがあります。
引退後、婦人科の先生にそのことを伝えたら、「3か月前という直前に飲むのは絶対やめてください」と言われました。ですので、長期的な視点を持って選ぶことをおすすめします。
自分の現状がわかる「おすすめの目標設定法」
坂梨 続いての質問へいきましょう。「体重管理で悩んだ経験はありますか?」
伊藤 太り過ぎ、痩せ過ぎの両方で悩みました。前者は、先ほどのピルを飲んで体重が増加した時です。何もしていないのに、どんどん体重が増えていくので、めちゃくちゃ辛かったです。
後者は、ピルを飲んでいない時のことです。練習ですごく痩せたり、エネルギー不足になったりしたんです。水泳は減量する競技ではなく、むしろ食べろと言われる競技ですが、練習を頑張りすぎると、ご飯が喉を通らないんですね。どうすればいいか、栄養士さんに相談しました。
坂梨 階級制度がある競技は、さらに体重管理が厳しいと思います。そこで大事になるのが、専門家など相談できる人が近くにいることだと思います。積極的に利用した方がいいですね。
次は「メンタルについて学ばれたなかで、おすすめの目標設定法はありますか?」という質問です。
伊藤 まず、自分がどんな人間なのかを知る。そのためには、ノートをつけた方がいいですね。例えば月経を絡めるのであれば、周期を把握して時期ごとの体調を記していく。それを2、3か月やってみるんです。
あとは、飛躍した目標を立てるというやり方もあります。そもそも目標設定の目的は、今の自分の現状を知ることです。なので、ゴールの大きな目標から逆算して、細かい目標を考えてみるといいかなと思います。ぜひ実践してみてください。
坂梨 では、最後の質問になります。「競技はできるだけ長く続けたいのですが、引退後にやりたいこともいろいろあります。結婚、出産など優先順位はどうやって決めましたか?」
伊藤 今は結婚、出産後も競技を続ける方が増えています何を優先すべきか、その時々でご自分が判断できる時代になっていると思います。
坂梨 そこで大切になってくるのが、選択肢の数ですよね。後々後悔しないよう、やっておきたいことを今のうちにリストアップしておくといいかもしれません。
パートナーを探そうとか、競技にまた戻れるようにケアをしておこうとか、卵子凍結を検討しようとか、思いつく限り書いておいた方がいいですよね。
伊藤 その通りですね。
坂梨 最後に、アスリートのみなさんにメッセージをお願いします。
伊藤 大事なのは、自分自身の健康と人生です。ぜひ大きな視野でご自分を見ていただけたらと思います。そのあとに、細かく1ヶ月くらいの目標を作ったりしてみてください。
そのためにもまず健康に楽しく競技や自分と向き合えているかどうか、振り返ってみてください。絶対とは断言できなくていいので、せめて正しいと思える状態でいていただけたらと思います。
坂梨 アスリートとして、女性として悩むことは多いと思いますが、伊藤さんからとても良いお言葉をいただけたと思います。今後もみなさんが、楽しみながらアスリートライフを送れることを祈っています。ありがとうございました。
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