「働く女性にとってピルはQOLを高める手段となる」産婦人科医 吉村泰典先生

インタビュー
更新日:2022.01.01

mederi  magazineは、mederiのサービスに携わっているメンバーはもちろん、専門家、有識者の方々をゲストに迎え、知っているようで意外と理解できていないカラダのこと、生理のこと、ライフスタイルにまつわる情報を発信していくwebマガジンです。 記念すべき創刊号に登場いただくのは、生殖医療の第一人者として、これまで3千人以上の不妊症、5千人以上の分娩など数多くの患者の治療を担当されてきた産婦人科医師 慶應義塾大学 名誉教授 吉村 泰典(よしむら やすのり)先生。

日本産科婦人科学会理事長、日本生殖医学会理事長として女性の健康はもとより、内閣官房参与として少子化対策・子育て支援の政策立案に取り組まれた吉村先生に、「いまを生きる20〜30代女性が知っておきたいからだのこと」について語って頂きました。
 
前編・後編でお届けします。
 
インタビュアー:mederi 代表取締役 坂梨 亜里咲
 

吉村 泰典(よしむら やすのり)先生

産婦人科医師
慶應義塾大学 名誉教授

1975年慶應義塾大学医学部卒業。米国ジョンズホプキンス大学留学、杏林大学医学部産婦人科助教授などを経て、1995年慶應義塾大学医学部産婦人科教授。臨床現場、医学教育の傍ら、日本産科婦人科学会理事長、日本生殖医学会理事長、日本産科婦人科内視鏡学会理事長、その他数多くの学会理事など学会要職の他、厚生科学審議会専門委員、法制審議会委員、内閣府総合科学技術会議専門委員、文部科学省科学技術・学術審議会専門委員、日本学術会議生殖補助医療の在り方検討委員会委員を歴任。これまで3千人以上の不妊症、5千人以上の分娩など数多くの患者の治療を担当。

 

「月経が始まったら産婦人科に行く」という認識を

 

ー吉村先生、本日は貴重なお時間を有難うございます。まず、吉村先生が医師になろうと思われたきっかけを教えていただけますか?

私が10代の頃は、高度経済成長期で建築・土木関係の職業が花形だったんです。両親もそのような職種を好んでいましたね。それでも私は小さい頃から「お医者さん」という職業に憧れていて、人の病気を治したいという気持ちが強かったんです。  
 
ー医師の中でも専門分野が分かれますが、どうして「産婦人科」を選ばれたのでしょうか?
医学生の夏休みに、「医師の見習い」ということで病院に2~3週間住み込んでいろんなことを学ぶ機会がありました。研修ではなく、自主的に病院を探して勉強にいくスタイル。もちろん、お金はもらえないですよ。その夏休みに、静岡県の病院で産婦人科をメインに学ばせてもらったんですね。そこでお産に立ち会い、とても感動したんです。産む女性もすごいけれど、産婦人科のお医者さんのテキパキと動くを見て感銘を受けたのです。 それから医師になって、実習で様々な科を回ったけれど、他の科にはない妊娠分娩を扱うことに魅力を感じ、やっぱり産婦人科って素晴らしいなと思ったんです。 私は1975年に医学部を卒業して、それから随分経っているけど、この想いはずっと変わっていないです。医療分野に携わって45年以上経っているけれど、今でも産婦人科は素晴らしいと思います。「女性が分娩する姿に立ち会える」「生命の誕生の瞬間に立ち会える」というのは感動的ですよ。  
 
ーmederiの展開するサービスを利用されているユーザーさんには「産婦人科にかかるタイミングがわからない」というユーザーもいらっしゃるのですが、どんなタイミングでかかったらよいでしょうか?
この記事を読んでいる大多数の方は、「産婦人科=お産」のイメージが強く、妊娠した時に行く場所と思っているのではないでしょうか。 生命の誕生だけでなく、思春期から老齢期に至るまで女性の健康管理というのが産婦人科医の使命なんです。欧米では、「初経が起きたら産婦人科にいく」という慣習があって、お母さんがお子さんを産婦人科に連れていくんですね。だから、産婦人科のマイドクターを持っている方が圧倒的に多いです。 日本でも若いうちから「月経が始まったら産婦人科に行く」という認識を持っていただいて、定期的に受診していただきたいですね。

現代女性は月経にさらされすぎている。 ピルの服用で、女性のQOLは間違いなく上がります。

 

 
ー女性は人生の大半を「毎月、月経がある」状態で過ごすので、上手につきあうためにも産婦人科を定期的に受診するのが大切ですよね。
現在日本と欧米では全く「月経」の捉え方が違ってきます。日本人はいまだに「月経は1ヶ月に1回必ずこなきゃいけないもの」だと思っているでしょ?欧米ではすでに妊娠を望まない期間、ピルの連続服用で月経そのものを止めてしまうということが行われているんですよ。 ところがね、基本的に月経というのは、一定のホルモンを維持してちゃんとコントロールさえすれば、極端なことをいうと1回もこなくたって女性は困らないんです。  
 
―月経が起きるのを当たり前として受け入れている方がほとんどだと思いますが、月経を止めるメリットを教えていただけますか?  
昔の女性の月経は生涯100〜150回くらいでした。一方で現代女性は約450回程度です。 4倍ほど異なる理由は、昔の女性は10代後半で結婚して閉経するまでに子どもを4〜6人ほど産んでいたからです。妊娠中と赤ちゃんにおっぱいをあげている間は月経がないことが多いので、少ない人だと一生涯で月経が起きるのが50回くらいの人もいたんです。 ところが、現代は晩婚化・晩産化。産む子どもの人数は2人以下でしょう。そうすると400回~450回月経が起こる計算になります。つまり、現代女性は月経にさらされすぎているんですよ。  
 
―昔の女性と比べて生涯に起きる月経回数がそんなにも違うんですね。月経にさらされすぎることで生活の質(QOL)も低下する印象です。
月経にさらされることによって、引き起こされる病気があります。代表的な病気としては、子宮内膜症が増えています。また、近年、PMSや月経痛に悩む人が非常に増えてきたのは、この過剰な回数の月経に紐づくものでしょう。 子宮内膜症予防のためにも月経の回数は積極的に減らした方がいいです。 そこで私が長年の産婦人科医としての経験から推奨しているのが、ピル(経口避妊薬)の服用です。 月経痛を和らげるために鎮痛剤を飲むっていうのは、意味のあることとは思えません。確かに鎮痛剤は痛みをとることの改善にはなりますが、子宮内膜症は予防できません。 ピルの服用により月経コントロールを行えば、女性のQOLが間違いなく上がります。  

正しい知識を知って、ひとつの選択肢に

 

 
ーmederiでもオンライン診療によるピル処方サービスを展開していますが、吉村先生は日本人女性にピルについて知っておいてほしいことは、何かありますか?
女性が生きていく上で、ピルが非常に有効なお薬だということを知っていただきたいです。月経での腹痛や頭痛などの痛みは我慢しなくちゃいけない、と思ってる方もいるかも知れないけれど、痛いより痛くない方がいいに決まっていますよね。 ピルは、もともとは避妊目的のために開発されたお薬ですが、さまざまなが副効用があるんです。例えば服用することで月経量が減る、月経痛が緩和される、月経日を移動できる、卵巣がん・大腸がんのリスク下がるなどの利点があります。 日本では、ピルを服用することでいろんな副作用が起こってくるんじゃないかと、ネガティブなイメージを抱かれている方も多いでしょう。
「服用することによって、妊娠しづらくなるんじゃないの?」と聞かれることもありますが、ピルによって不妊になるというデータは一切ありません。 ピルを飲んでいればいつ月経が起こるかが明確になりますし、月経に伴う痛みや不調も緩和されるとなると、生活設計もしやすくなるなど、たくさんのメリットがあるんです。
 
  ー一方で注意すべき点があれば教えてください。
血栓症のリスクが高まる点です。 ピルの中に含まれてるエストロゲンというホルモンの量によって、血栓症が起こり得る可能性が出てくるわけです。 最近よく処方されている「低用量ピル」というのは、血栓症リスクを減らすためにエストロゲンの量が非常に少なくなっています。ですから、ピルによって血栓症になる方の割合も減ってきていますね。 血栓症は、ピルを飲みはじめて3ヶ月くらいの間に起こることが圧倒的に多いんです。連続して何年も服用されている方はそこまで気になさらなくてよいかと思いますね。
ただ、妊娠・出産後にまたピルを飲み始めるなどの、ピル再開の場合は要注意。それから、タバコは血栓症のリスクに繋がるのでピルを飲むなら禁煙をすることと、もとから血圧が高い人も注意が必要です。 あと、気をつけなくちゃいけないのは「乳がん」。乳がんの家族歴があると発症リスクが少し高まる可能性があるので、必ず定期的に乳がん検診に行ってくださいね。  
 
ーピルについての知識をわかりやすく教えていただきましたが、日本では正しい知識が行き届いていない印象です。そもそも日本ではピルの普及率が低い状況ですが、なぜでしょうか?
とにかく、ピルが避妊薬だと思っている方が多いからでしょうね。 ピルの日本全体のユーザーは全体の3~5%くらいと言われています。欧米諸国だと女性がピルを飲むのは当たり前で、普及率が70%の国もあるほど。日本でも避妊目的でピルを飲んでいる人は2割程度でしょうか。8割の人は、月経量を減らしたいとか、痛みを改善したい、月経日移動をしたいなどの避妊以外の目的で飲んでいるんです。
そもそもピルが日本で医薬品として承認されたのは1999年で、国連加盟国で最も遅いんです。では、なぜ欧米諸国に比べて40年以上も遅れをとったのか?それは、男性のピルに対する偏見や、根底にある女性軽視が影響していると思います。 ピルを飲むことによって、「女性の性が乱れる」という考えが根底にあるのでしょう。だから、中学校や高校でもいまだに「なんで避妊薬なんかを飲んでいるのだ!」と追及する先生もいるほど。しかし、ピルのせいで性が乱れるというのはこじつけに過ぎません。ピルが解禁されてもされなくても、性が乱れるときは乱れます。
一方で、男性のための勃起不全治療薬​バイアグラは申請からすぐに承認されています。この論点から考えると、バイアグラだって性は乱れないのか?と考えるべきでしょう。
ピルは女性が飲むものだけど、有用性については女性だけでなく、男性にもきちんと理解してもらいたいですね。
 
 
ーそのような背景が関連していたなんて…!ぜひ、学校で教えてほしかった興味深い内容です。
私は、産婦人科医として女性がピルを飲むということが、すごく大事なことだと考えています。 初経のタイミングから飲み始めてほしいですし、せめて中学校からピルについての正しい知識を教えてほしいですね。 最近では、受験を控えた高校生が行く予備校で、試験中に月経が起こりパフォーマンスが落ちないようにピルについての指導をしているところもあります。
 
ー確かに、勝負日の体調を万全に整えるという点でもピルは有用なのですね。
コンディションを向上したいアスリートにとっても、月経やピルとの上手な付き合いが重要となってきます。 例えば、長距離を走る陸上選手などは体重制限などから月経が止まってしまい、その結果女性ホルモンが不足して疲労骨折を繰り返しているんです。 欧米の女性アスリートが本領を発揮できるのは、きちんと月経と向き合っているからでしょう。ヨーロッパでは、女性選手に産婦人科医がピルを出していて、ほとんどの女性アスリートは服用しています。  
 
ー最近、日本の女性アスリートがピルを服用して体調をコントロールしているというお話をメディアで見かける機会も多くなってきたので、これを機に日々勉強や仕事を安定して頑張りたい女性にも知っていただきたいものですね。
私は、初潮がきて、2〜3回ほど正確に月経がくるということがわかれば、ピルを服用すればいいと思いますね。初潮、中学生、高校生、大学生、新入社員時代も飲み続けて、子どもが欲しいなと思ったら、服用を停止するという考えです。 そうすることで、女性特有の苦しみや痛みから解放されて、QOLが高まることを願っています。  
産婦人科医・吉村先生から、月経やピルの歴史、欧米との捉え方の違いなど普段なかなか知ることができない貴重なお話を伺うことができました。 後半は、妊娠、出産、不妊にフォーカス。自分に合ったライフプランをたてていくためにもぜひご覧ください。

※1 初月無料は低用量ピルのみ対象となり、別途送料550円(税込)かかります

※2 低用量ピル/超低用量ピルのみ対象となります

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