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産婦人科医 吉村泰典先生「卵子の数は減っていく。生殖年齢は大昔から変わっていないんです」

mederi  magazine創刊号に登場いただくのは、生殖医療の第一人者として、これまで3千人以上の不妊症、5千人以上の分娩など数多くの患者の治療を担当されてきた産婦人科医師 慶應義塾大学 名誉教授 吉村 泰典(よしむら やすのり)先生。

日本産科婦人科学会理事長、日本生殖医学会理事長として女性の健康はもとより、内閣官房参与として少子化対策・子育て支援の政策立案に取り組まれた吉村先生。

前編では「月経とうまく付き合うためのピルの有用性」について貴重なお話を伺えました。後編は、女性が自分らしいライフプランをたてていくために、妊娠、出産、不妊のことを深掘り。ぜひご覧ください。

インタビュアー:mederi 代表取締役 坂梨 亜里咲

吉村 泰典(よしむら やすのり)先生

産婦人科医師
慶應義塾大学 名誉教授

1975年慶應義塾大学医学部卒業。米国ジョンズホプキンス大学留学、杏林大学医学部産婦人科助教授などを経て、1995年慶應義塾大学医学部産婦人科教授。臨床現場、医学教育の傍ら、日本産科婦人科学会理事長、日本生殖医学会理事長、日本産科婦人科内視鏡学会理事長、その他数多くの学会理事など学会要職の他、厚生科学審議会専門委員、法制審議会委員、内閣府総合科学技術会議専門委員、文部科学省科学技術・学術審議会専門委員、日本学術会議生殖補助医療の在り方検討委員会委員を歴任。これまで3千人以上の不妊症、5千人以上の分娩など数多くの患者の治療を担当。


残酷なことに全ての人が子どもに恵まれるわけではない

ー吉村先生は45年以上も医師として歩まれてきて、かなり多くの患者さんを診られていらっしゃいますが、特に記憶に残っていることはありますか?

「子どもが欲しい」というカップルが無事、妊娠・出産をできたときはすごく喜ばれますし、私もとても嬉しいです。しかし、そういった幸せな方々よりも、どちらかというと子どもに恵まれないカップルがとても印象的ですね。

残酷なことに全ての人が子どもに恵まれるわけではないんですよ。大学病院は最終的なターミナルホスピタルみたいなところですから、他の病院では授かれなかったり、妊娠適齢期をはるかに超えているなどの理由から、藁にもすがる想いで来られる方が多いんですね。

みなさん必死で、何度も体外受精に挑戦される方、子どもを諦める方さまざまな方がおられて、涙を流される方も非常に多いんです。 

 

ー私自身も不妊治療をしており、産婦人科でたくさん涙を流してきました。吉村先生は3000人以上の不妊治療を手掛けてこられましたが、どのような治療を行ってきたのでしょうか?

まず、採卵手術によって体内から取り出した卵子を体外で精子と受精させる「体外受精」と呼ばれる治療。体外受精を何度もされた、ある患者さんのことは今でも記憶に残っていますね。

その方は体外受精を6回行って、残念ながらそのうちの2回流産をしてしまって。その後、なんとか妊娠をすることができたのですが、当時妊婦さんは40歳で高齢妊娠・出産というリスクの高い状態でした。

妊娠初期に超音波検査をした時に、赤ちゃんの首の後ろに水が溜まっていたんです。医学的にはNT(胎児後頸部透亮像)と言い、NTの厚さが胎児の染色体異常と関係があることで知られていて、NTが厚いとダウン症などの染色体異常の可能性があるとされています。

流産後の念願の妊娠ですから、胎児の経過観察と共にご夫妻がどのような選択をされるのか診ていこうというところで、残念ながら子宮内で胎児が死亡してしまいました。それからも治療されましたが、結局子どもには恵まれなかったんです。

 

ー妊娠・出産というのは奇跡の連続なのだと気付かされるエピソードですね。家族の形が多様化し、「子どもを持つ」ためのさまざまな選択肢を選ばれる方もいらっしゃいますよね。

私はAID(非配偶者間人工授精)にたくさん取り組んできました。男性不妊の場合に用いられる方法で、精子がない男性の代わりにドナーの精子を使って人工授精するものです。

AIDを選択されたカップルが、「AIDで子どもを授かったんだ」ということを子どもに言うべきかどうかが非常に大きな問題になっています。

「私たちはAIDのことを子どもには一切知らせません、社会は出自を知る権利だとかいっていますが、私たちは夫婦二人で墓場まで持っていきます」と涙ながらに仰ったご夫婦がいて、それはもう印象的でしたね。いまでも私に感謝をしてくれていて、毎年、お子さんの成長がわかる年賀状をくれます。

 

ー固定観念に縛られない色々な家族の形がある一方で、社会的にも向き合っていかなくてはならない難しい課題もあることが分かります。

私自身、婦人科外来・妊娠管理・分娩など、産婦人科医として多くの経験を積んできましたが、特に生殖補助医療を専門にしています。

女性のライフステージサポートだけではなくて、生まれた子どもの成長も含めて、家族をサポートしていく社会性が強い分野だと思います。

「生まれた子どもが幸せな人生を送り、親とともに幸せを分かち合えること」を実現するためにも、社会・家族・夫婦の在り方について常に考えています。

 

卵子は増えずに、減る一方。生殖年齢にはリミットがある

ーいつか子どもを産みたいと考えている女性に、知っておいてほしい知識はありますか?

時代やライフスタイルは変わっても、生殖年齢は大昔から変わっていないということです。

戦争中の辛い時期から比べると体内の栄養状態も非常によくなっていて、現代女性の初経は昔よりも3年ほど早くなってるんですよ。ところが、閉経の年齢平均は50歳前後と、変化していない。要するに、生殖年齢というのはいかに寿命が延びても、変わらないものなんです。これは女性のみならず、男性も知っていただきたい事実です。

 

ー私自身も26歳で初めて不妊治療を行って、生殖年齢にリミットがあることを知りました。産めない状況に直面してから妊孕力に気づくカップルが遅い印象ですが、いかがでしょうか?

やっぱり小学校の高学年あたりからこういう「からだの仕組み」をきちんと教えて行かないといけないですよね。日本人の生殖知識レベルは、国際的にみても極めて低い。
しかし、知らなかったみなさんが悪いわけではないです。だって、学ばなかったのではなく、学ぶ機会がないだけだから。

日本は、「性行為をすることで子どもを産むことができる」「性行為をしないと新たな命は誕生しない」ということから、きちんと性教育をしていかないといけません。例えば、精巣は精子を作るところですが、卵巣は卵子を作るところではないんです。

 

ー女性の妊孕力を語る上で、大事な「卵子」について詳しく教えてください。

卵子は年齢を重ねるとともに年をとり、数が減ります。精子と違って増えないんです。

女性の持つ卵子の数が、1番多い時期はお母さんのお腹の中にいる妊娠5ヶ月。このとき約600万~700万個まであった卵子は閉経まで減少し続けます。

生まれてくるころには約200万個となり、排卵が起こり始める思春期頃には30万個まで減少するんです。

卵子の数や質は不妊にも紐づきます。どんなに生殖医療の技術が進化しても、女性の妊娠適齢期は、卵子の量が充分にあって、質も正常、卵巣機能も正常な時期、つまり35歳頃までであることに変わりはありません。

 

我慢をせずに、産婦人科やピルなどをうまく活用して

ー読者のみなさんも、これまでの人生で「卵子」という存在を意識してこなかったと思うのですが、将来的に確実に必要な知識なので学生時代に知る機会がほしいですね。

卵子が減っていく一方というのは、びっくりするでしょ。妊娠・出産・不妊についての知識は、もちろん男性も学ぶべきですよ。

当たり前のようにパッと妊娠できると捉えて、避妊ということばかりに目が行くかもしれないけど、精子、卵子、子宮、着床……とさまざまな部分で起こりうる障害を超えていかないと妊娠できないんですよ。

そして、妊娠というのはね、女性にとってある種の最大のストレステストなんです。血液量が1.5倍、体重も10㎏増え、体に大きな負担がかかります。尿糖が出たり、血圧が高くなり、いろいろな症状が出てきます。男性にはとても耐えられないストレスでしょうから、しっかり理解して、どうやって女性をサポートできるのかを考えてほしいですね。

 

ー最後に、記事を読んでくれている女性にメッセージをお願いいたします。

私は産婦人科医だけれども、「子どもを絶対に産みなさい」っていう主義では全くもってありません。産む・産まないは自由であるべきですし、シングルマザーとして産んでも結構だと思っています。

いつか子どもを産みたいと思う人は、私がお話ししてきたように生殖年齢にはリミットがあるのでなるべく早いうちに妊娠適齢期を意識した人生設計をしましょう。お仕事は年齢を重ねてもできるでしょうけど、子どもを産むことはそうはいきませんからね。

そして、女性のからだは男性以上に非常に複雑で、女性ホルモンの多い・少ないによって様々な不調が引き起こります。我慢や無理をせずに、産婦人科やピルなどをうまく活用し女性ホルモン、月経をコントロールしていくことが、女性のQOL向上のためにとても大切です。


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